Day1
ウラヌスを一撃しそこねた3週間ほど後、再び天王岩へと足を運んだ。
目的はここの三段であるプルトンと冥王。
どっちかで良いので登りたかった。単純に三段だから。
ウラヌスリベンジメンバーについていき、とりあえずプルトンからトライ。
しかし、右肩を痛めていて般若の接続部分の右ガストンにかなりプレッシャーを感じて進めない。
そこに、偶然居合わせたプルート(四段)をトライ中のツヨなクライマーが冥王のムーブを鮮やかにこなしていたのを目にして、光明を見た。プルトンを諦める理由をみつけたとも言える。
そそくさとプルトンは諦め、冥王をトライ。
ツヨなクライマーがシュッとこなしていたパートは、自分はん゛う゛っとこなし……こなせず、しばしの立ち往生。
初手からザクザク尖ったカチピンチを持たされ、地面スレスレのアウトサイドフラッギングからクロスガストンで3本指のフルクリンプ。
これだけで100回に1回くらいしか出来ないんじゃないかと思わせる悪さだった。
そこからデッドで悪いカチ、またスレスレアウトサイドフラッギングを極めなおしてクロスデッド。
ここも10連ガチャ引いたら全部Sレアみたいな精度が求められる。
正直お手上げといった雰囲気だったが、岩をコネていると、初手を取った後にニーバーがかけられる事に気づいた。
これでかなりの負荷が殺せる。
このことに気づいたおかげで前半4手はほとんどニーバーしたまま突破することが出来るようになった。
ただ、ここまで進めた時点で夕方に差し迫り、おまけにこの日は染み出しがひどく、気温の低下でさらに染み出し始めたので初日はここで敗退。
一応ウラヌスのスタートまではバラしたので翌週にリベンジしようと決めた。
翌週、結局リベンジメンバーはみんなびしょびしょのウラヌスを倒すことが出来ずに揃ってリベンジと相成った。
Day2
この日のコンディションはパリパリ。これで落とせないわけがない。
ムーブの再構築はスムーズに進み、下部はそれなりに安定させること出来た。
ただ、それでも二段くらいの負荷があり、油断は出来ない。
下部を4手をこなし、そこからウラヌスに繋げる。
関東で最も簡単な二段と謳われるウラヌスといえど侮るなかれ。ん゛う゛っと下部をこなした後だと本当に二段に感じられる。
実質二段+二段。三段にグレーディングされるのも頷ける。2+2が3になるのはクライマーの間では一般常識。
ウラヌス単体では問題なく保持できた出だしのアンダーカチが全然引けなくなる。
右手を寄せ、そのままガストンに送った頃には左手が言うことを聞いてくれない。
為せば成ると飛び出してガバを止めた瞬間、左手が力尽きる。無念のフォール。
結局、これが最高高度で2日目は終了。
あまりに惜しかったトライだったので暫くは正気でいられなかった。というか、そのトライの動画を見返しては正気を失うということを1週間くらい続けた。
徳川家康が大敗を喫した戦の直後、その顔を画家に描かせたという逸話に倣い、悔しさを忘れないために。
この日でウラヌス組は一通り完登してしまったので、泣きのもう一日ということで最後は一人で天王岩へと赴いた。
Day3
大盛況だった前回の様子は鳴りを潜め、この日は僕の他にはもう一人しかいなかったが、どうせマットはマントルの所だけで済むし、集中して打ち込めるのでかえって都合が良かった。
体感的に午後はヌメりやすくなる体質なので、朝早く現着し、午前中で勝負を決める作戦。
しかし、アップの段階ではウラヌスだけでも全然繋がらず、かなり焦らされた。
指が温まったら体もついてくるだろうと、下部のムーブ再構築に取り掛かったことで割とすんなり体は温まってくれ、到着してから1時間ほどで下部の再構築は済ませられた。
ヨレる課題なのでレストは意識して長めにとり、数回のトライの後、前回出来なかったランジを止めることが出来た。
持てなかったアンダーカチは親指を横に添えてカチピンチにすることで飛び出しの瞬間壁から離れることを防ぐことに気づいたのが良かった。
ついでに理屈っぽい話でもうひとつ気づいたことがあった。
今まで僕はシャウト意味ない派だったのだけれど、シャウトが脳のリミッターを外し最大筋力を発揮できる理論をクライミングに当てはめられるという事に関して懐疑的だったのであって、
シャウトが息を吐かせることで血液を循環させ筋肉のパンプを遅らせることが出来る(?)みたいな理屈は、どうやら本当っぽいと体感できた。
相当必死こいてランジしたせいで、偶然シャウト気味にうめき声が漏れ、それがムーブの安定に繋がったことで気づくことが出来た。
ランジをとめて完登を心の中で確信しつつマントリングに入ったが、体力の限界がもう間もなくまで来ていて、全く体が上がらない。
モタついているうちに足が切れてフォールしてしまった。
この時の悔しさときたら、youtubeでBEYONDの中島徹くんがLucid dreaming敗退の直後、声を上げて泣くシーンをまさに自分が再現してしまうのではないかと思うほどだった。
正直、当事者になるまでは悔し泣くほどのクライミングをする彼に若干引いていたのだが、トップクライマーの感情を思わぬ体験から理解することが出来た。
本当に泣くかと思った。居合わせたクライマーにドン引かれたら嫌だったので静かにしていたが、心の中では大声あげて地団駄踏んで大暴れ大騒ぎだった。
レストしつつ、マントルが安定していないことを反省してムーブ変更することにした。
今まではウラヌスを初めて登った時に使用した遠い足に左足をかけ、左手プッシュと右手プッシュを段階的に行うマントリングをそのまま採用していたが、消耗が激しいのでウラヌス組が採用していたランジ先のガバに足を乗せて右手をめちゃくちゃ引きつけるムーブを採用。
トライ再開。
ただ、レストが不十分で、ランジ手前でフォール。
反省して30分くらい長めにレストすることにした。
ついでに、岩用に使っていたインスティンクトVSのソールの摩耗のせいか、スタートのフットホールドが抜けることが多い気がしたので、念の為持ってきていた本気コンペの時にしか使っていなかったVSRにシューズ変更した。
個人的にビブラムは摩耗するとソールの粘着性が失われて滑りやすくなる気がする。ビブラム以外のソールの靴を使い込んだことが無いので全部そうかもしれないけど。
呼吸も整い、腕のパンプも落ち着いたことを確認して再びトライ。
スタートの足は抜けなかった。ナイスVSR。初手、ニーバー、アウトサイドフラッギング、2手目、3手目、またニーバーとアウトサイドフラッギング。4手目、いつもは切れる足が切れなかった。いい流れを感じる。
ウラヌスに接続。ようやく呼吸ができる。パンプの気配もない。ウラヌス初手、ホールドは若干下の方を捉えてしまったが、問題はない。右手寄せ、キョン、右手送り。左手をカチピンチに持ち直す。息継ぎをして、発射。
再びランジをとめることが出来た。
一気にマントルまで手をすすめる。修整したマントリングが功を奏し、ついに岩の上に立つことができた。
お気持ち
やりきることができた事に安堵。レッドポイント更新した喜びよりもそれが先に来た。
以前、静かの海を登った時に三段完登の喜びを噛み締めすぎてしまったので、失ったものを取り戻したという感覚に近かったかもしれない。(静かの海は新トポ発売時に二段にグレードダウンした。)
それと、また登れなかったら…と思い悩む日々から開放されたという気持ちが強かった。
登りきったその場に座り、達成感に静かに浸る。
あまりソロで岩には行かないけれど、人がいない岩場の自然の静けさを、岩の上で堪能するのも非常に心地よかった。
次はin tokyo!を目標にやっていこうと思う。